クラウドマイグレーションとは?IT環境をクラウドに移行する
自社で管理しているデータセンターなどの物理サーバー(オンプレミス環境)から、 AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft AzureなどのパブリッククラウドにITシステムを移行することを、 クラウドマイグレーションと言います。 近年、クラウドマイグレーションを行う企業や、検討を始める企業は年々増加しています。 なぜ多くの企業はクラウドマイグレーションを行うのでしょうか。このページではクラウドマイグレーションによるビジネス環境へのメリットについて解説いたします。
オンプレミスとクラウドの比較
オンプレミスとは、サーバーなどの機器を自社が管理する施設(ビルやデータセンターなど)で運用するITシステムの環境です。 プライベートクラウドと呼ばれることもあります。 一方で、クラウドとは、インターネットを経由して、サーバなどのリソースを利用できる環境のことを指します。 オンプレミスの「プライベートクラウド」と対比して、パブリッククラウドと呼ばれることもあります。 オンプレミスとクラウドは、そもそもどのような違いがあるのでしょうか。 以下の項目で比較を行っていきます。
初期コスト
オンプレミスの初期コスト
オンプレミスの初期コストは非常に多額になることが多いです。 機器を設置するためのビルやデータセンターの区画を契約する必要や、設置する機器を購入する必要があります。 一般的に数千万円~数十億円ほどの初期コストがかかります。
クラウドの初期コスト
0円か、低額になることが多いです。 なぜなら、データセンターやサーバなどの機器はクラウドサービスの提供会社(Amazonなど)が代わり行うためです。
調達スピード
オンプレミスの調達スピード
半年~数年のリードタイムが必要になります。 データセンターの契約や機器購入ベンダーからの機器購入、 機器の配置、搬入、クラウド環境の設計、運用方針の決定などを行う必要があります。
クラウドの調達スピード
5分~1日のリードタイムで調達が可能です。 AWSやAzureといったパブリッククラウドの環境は、数クリックでサーバを構築することができます。
品質
オンプレミスの品質
動作環境の品質は設計者のスキルに依存するため、ばらつきが生じてしまいます。 ただし、障害発生時は詳細な調査が可能で、恒久対応が行いやすいです。
クラウドの品質 AWSやAzureでは、AmazonやMicrosoftの技術者がデータセンターの設計や管理を行っているため 非常に高品質な環境を利用できます。 ただし、障害発生時は詳細な原因調査が不可能で、クラウドサービス提供会社が開示する情報しか得ることができません。
カスタマイズ性
オンプレミスのカスタマイズ性
自社で管理しているため圧倒的にカスタマイズしやすいです。 ただし、リソースに限度があるため、リソース面のカスタマイズはクラウドに比べて劣ってしまいます。
クラウドのカスタマイズ性
カスタマイズ性はクラウドサービス提供会社が提供するサービスに依存するため、オンプレミスよりも柔軟性は低くなります。 ただしリソース面は無限に近いカスタマイズが可能です。
セキュリティ
オンプレミスのセキュリティ
データセンターのセキュリティ管理やITシステムのマルウェア対策、DDos対策は すべて自社で行う必要があり、コストをかけただけセキュリティが強固になります。 逆に、コストをかけないとセキュリティに穴を残してしまうことがあります。
クラウドのセキュリティ
クラウドサービス提供会社にもよりますが、データセンターのセキュリティ管理は非常に高い水準になっています。 また、Tシステムのマルウェア対策、DDos対策はサービスとして提供されており、 初期投資なしで利用できるため、要件に応じたセキュリティ対策が可能です。 このように、クラウドはオンプレミスと比較して、コスト、およびスピード面で圧倒的に優位であることがわかります。 また、セキュリティや品質についても、クラウドに関する正しい知識をもって利用すれば、 オンプレミスよりも強固なセキュリティで高品質なITシステムを提供できるということがわかります。
クラウドマイグレーションの手順
オンプレミスとクラウドを比較して、クラウドのメリットを十分にご理解いただけたと思います。 では、クラウドマイグレーションはどのように進めていけばいいのでしょうか。
クラウドマイグレーション先を選択する
現在は様々なクラウド業者が存在し、それぞれの特徴が存在します。 各々の特徴について知っておき、最適な移行先を選択しましょう。 有名なクラウドについて、特徴を記載していきます。
AWS
Amazonの子会社であるAmazon Web Servicesが提供している世界シェアNo.1のクラウドサービスです。 サーバやデータベースといった基本的なクラウドサービスのほかに、 5G通信や人工衛星、量子コンピュータといった最新技術など、 ほとんどすべての領域のITサービスを利用できます。
Microsoft Azure
Microsoftが提供している世界シェアNo.2のクラウドサービスでsう。 Office製品やActive Directoryなど、オンプレミスとの親和性が高く、 既存のシステムやオンプレミスとの連携に強みがあります。
Google Cloud Platform
Googleが提供しています。TensorFlowやBigQueryといった大規模なデータ分析やAIの分野に非常に強みがあります。 また、Anthosというサービスを使うことで、オンプレミスやほかのクラウドサービスと容易に連携することができます。
Alibaba
中国のAlibaba社が提供するクラウドサービスで、世界シェアNo.3になります。 中国ではAWSやGCPで利用できるサービスが限られているため、 中国でITシステムを構築する際には圧倒的にな強みがあります。
マルチクラウド、ハイブリッドクラウド
1つのクラウドサービスに絞って利用を行う形式も多いですが、 近年では複数のクラウドサービスを利用して、それぞれのの強みを生かしてITシステムを構築する形式も増加しています。 複数のクラウドサービスを利用することをマルチクラウドといいます。 また、セキュリティ要件などでオンプレミスの環境をどうしても使う必要がある場合、 クラウドとオンプレミスをネットワークで接続して利用する形式も存在します。 この形式をハイブリッドクラウド形式といいます。 クラウドマイグレーションを行う際には、マルチクラウドやハイブリッドクラウドも視野に入れてみるといいでしょう。
クラウドマイグレーションの方針を選択する
クラウドマイグレーションの方針は、以下の4つの選択肢があります。
リフト、リホスト
リプラットフォーム
リパーチェス(再購入)
リファクタリング
それぞれ、どのような移行方針なのか、簡単に説明していきます。
リフト、リホスト
システムの構成やアプリケーションをそっくりそのままクラウド上へ移行する方針です。 リホスト用のツールがクラウドサービス側で用意されていることもあり、もっとも簡単な移行方針です。 OSのサポート切れなど、移行の必要性に迫られた場合や、ノウハウ蓄積を目的とした場合は最適な移行方針です。 一方で、クラウドのメリットを十分に生かすことができない場合が多いです。
リプラットフォーム
アーキテクチャをそっくりそのままクラウドに乗せ換えるリフト、リホストと異なり、 多少のアーキテクチャをクラウドに沿った形式にする移行方針です。 例えば、ストレージをAWSのS3などに移行し、構築、運用コストを削減するような方針です。 リフト、リホストと同じくらい低リスクで、かつクラウドのメリットも享受できます。
リパーチェス(再購入)
サポート切れになったオンプレミスの製品を、クラウドのPaaSやSaaSなどに置き換える移行方針です。 例えば、オンプレミス環境で運用していたウイルス対策製品を、SaaS製品に変更するといった形式です。 全体的なアーキテクチャの移行方針にはなりませんが、スポットで活用できる移行方針です。
リファクタリング
クラウドサービスとして提供されている機能やサービスをフル活用し、ITシステムを再構築する移行方針です。 「クラウドネイティブ」とも呼ばれます。 最も難易度は高いですが、耐障害性の獲得や高速なデプロイ、 低コストといったクラウド特有のメリットを最大限に得ることができます。
クラウドマイグレーションのスケジュールを考える
つぎに、方針を定めたら、スケジュールについて考えていく必要があります。 クラウドマイグレーションで必要なステップは以下の通りです。
検証
クラウドマイグレーションにおいてリスクがないか、クラウドマイグレーション後もITシステムが稼働できるか、 といった検証を事前に行い、手戻りを減らします。 具体的な方法としては、クラウド上にシステムを最小構成で作ってみることです。 稼働の可否や性能をみるだけでなく、 クラウドマイグレーションに使用するデータ移行ツールなども検証しておく必要があります。
設計・開発
システムをクラウド上に移行した場合、どのようなサービスを組み合わせて構築していくのか、 事前に図などにしておき、構築を行っていきます。 このとき、一番最初はリソースを最小限にしておきましょう。 性能試験結果によってリソースを追加していく、といった形にすると無駄がない開発ができます。
データ移行
既存のシステム内に存在するデータをクラウド上に移行するステップです。 データ量から、どのくらい移行期間が必要かを見積もっておきましょう。 また、データ同期方法についても考える必要があります。 AWSにおけるDMSのように、クラウドサービス側で移行ツールが用意されている場合があるので、 できる限り事前に検証を行って、利用を検討してみて下さい。
切り替え
十分にテストを行い、データも移行したら、新システムの切り替え日を設定し、周知しましょう。 切り替え時には、データの同期を終了させる手順や、切り替え後の動作確認手順を用意しておきましょう。 リスク低減のために、並行稼働期間を設けることも一考です。
クラウド人材を育成する
クラウドを利用するにあたり、最も重要な点は、クラウドに関する知識を十分に持った人材の獲得です。 クラウド移行および、移行後に運用していくにあたり、自社内にクラウドに関する知識を持った人材がいないと、 トラブルに見舞われた際にリカバリーが困難になってしまいます。 現在は各クラウドサービス提供者が、動画サイトやチュートリアルを無料公開しており、容易にクラウドに関する知識を得ることができます。 会社としても、そのような意欲のあるエンジニアをサポートするような環境整備を行い、 人材を育成していくことが大切です。
パートナー企業と協業する
クラウド人材の育成も必要ですが、人材の育成は一朝一夕に行うことができません。 したがって、クラウド人材を多数擁している企業をパートナーとし、 パートナー企業と協業しつつ、クラウド人材を育成しながらクラウドマイグレーションを行うという方法もぜひ検討してみてください。 パートナー企業と協業することで、クラウドに関するノウハウの獲得や、最新情報を得られるだけでなく、 クラウドマイグレーションのリスクを大幅に低減することが可能です。 また、どのように移行していくか、イメージを共有することもできます。 例えば、「リホスト」の移行方針であれば以下のサイトのようなイメージで考えることができます。
まとめ
クラウドマイグレーションは適切な方針、適切なクラウド選択を行えば、 コストの大幅カットや、サービスの高速アップデートといったクラウドのメリットを十分に得ることができます。 また、クラウドマイグレーションになかなか踏み出せない、といった場合はパートナー企業との協業を行えば、 リスクを大幅に低減することもできます。 クラウドのメリットを生かし、企業の競争力を高めるITシステムの構築を行っていきましょう。