デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?経営マインドや、アプローチ手法、技術、開発手法など
最近、デジタルトランスフォーメーションという言葉が非常によく聞かれるようになってきました。ただ、実際に言葉はよく聞きますが、デジタル化やデジタルビジネスと何が違うのでしょう?おそらく正確に何が違うかは分かりにくく、”トランスフォーメーション”や”X”というキーワードも分かりにくくなっている要因かもしれません。
経済産業省の定義では「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(※1)となっています。様々な文献でデジタルトランスフォーメーションは述べられていますが、ここでは考え方から実際の進め方までデジタルトランスフォーメーションを述べていきましょう。
デジタイゼーション/デジタライゼーション/デジタルトランスフォーメーションの区別
よくデジタル化やデジタルビジネスなどのキーワードを耳にすると思います。デジタルトランスフォーメーションとはどう違うのでしょうか?例えば受付業務に今までになかったロボットを設置して自動受付などを導入して業務を行っていたとします、これはデジタルビジネスではないの?デジタルトランスフォーメーションではないの?というシンプルな疑問も湧きます。デジタル化などと含めて少し整理する必要があります。では、段階を追って説明していきましょう。
第一段階:デジタイゼーション(Digitization)
アナログデータをデジタル化することです。伝票、カルテ、タイムカードなど様々なアナログデータが存在しますが、これらをデジタルデータ化することにより、ペーパーレスが進み、デジタル情報として扱えるようになります。例えばタイムカードをパンチャー印字しているものを、パソコンなどでのタイムカード入力に変更し最初からデジタルデータとして管理すると、それだけで勤怠デジタルがデータベース上に記録されます。これによって勤怠管理などもスムースにできるようになり、働き方改革に繋がります。
第二段階:デジタライゼーション (Digitalization)
デジタイゼーションによるデジタル化されたデータを活用し、今までなかった新しいサービスやビジネスを創出することです。例えばチャットボット導入によるデジタライゼージョンです。製品やサービスのお問い合わせ窓口にチャットボットを導入することにより、顧客とのやり取りの履歴がテキストによるデジタルデータで残ります。このデジタルデータを分析することにより顧客ニーズも掴め、製品などへのフィードバックに繋がります。また24時間無人対応によりサービスの向上にもなります。このようにデジタルデータとデジタル技術の導入により付加価値を高め、新しいサービスを行うことができます。
第三段階:デジタルトランスフォーメーション (Digital Transformation)
デジタイゼーション、デジタライゼーションを活用しながら、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することです。ポイントはデジタイゼーションとデジタライゼージョンとははっきり区別することです。デジタイゼーションとデジタライゼージョンはデジタルトランスフォーメーションを進めるための手段またはプロセスであり、デジタルトランスフォーメーションは企業そのものや、ビジネスモデルの変革を伴う点が大きく異なります。
詳細はこれから述べていきます。
デジタルトランスフォーメーションを成功させる組織
ここではデジタルトランスフォーメーションを成功させるために必要な組織変革を中心に組織、制度、企業文化、人材育成、経営について述べていきます。
組織
まず専任組織についてです。最近デジタルトランスフォーメーションを推進する専任組織を設置する企業が増えています。これはデジタルトランスフォーメーションを推進するには専任組織が必要であるという認識の現れと考えられます。既存の組織内や既存の組織との兼任部門を設置するのではなく専任組織を設置するには理由があります。
企業の事業の根幹となる既存の組織は、継続的に現行のビジネスモデルで、企業の利益をさらに追求するミッションを持っています。既存のビジネスモデルをデジタル化などで進化させて競争力を高める動きを行いながら、売上げ拡大や損益確保などの重要なミッションの遂行を行います。既存の人材やノウハウを継続的に進化させていくことにより、現行の能力をさらに研ぎ澄ましていきます。
一方で、デジタルトランスフォーメーションを推進する新しい組織は、デジタル技術を活用し今までとは異なるビジネスモデルを生み出すデジタルイノベーションを推進するために、時間と投資を必要とします。今までとは異なる人材、蓄積されていない、異なる新しいノウハウ、新しい技術により新しいビジネスモデルを創出する必要があります。多くの時間と投資に対し、基本的に予測の立たない売り上げ、損益しか見込めません。
つまり新しい組織は時間、投資を必要とするにもかかわらず既存の組織の様な確実な売上げや損益の成果は出しません。このように組織の性質が全く異なるため、実質的に兼務などの同じ組織内では共存するのは難しくなります。
このような性質の違いから、デジタルトランスフォーメーションを推進する組織は専任組織が必要と言われています。
制度・企業文化
評価の制度をしっかりと整備する必要があります。既存の組織と新しい組織は求められる成果が異なるため企業として組織の評価基準も異なる内容が必要です。既存の評価基準からすると新しい組織のミッションはかなり異質なため、制度をしっかりと作り両組織の間に軋轢ができないようにする必要があります。
また新しいサービスやビジネスを創出するために、トライアルアンドエラーを行うため、失敗が許容される文化も必要です。既存の制度や企業文化により、新しい組織が失敗のため人や組織が評価されずに止まってしまったり、消滅してしまうようであれば、デジタルトランスフォーメーションは進みません。
人材育成
ではデジタルトランスフォーメーションを推進するにはどのような人材が必要なのでしょうか?既存の組織では今までのビジネスモデルを進めることにより損益を確保し、企業の成長を進めてきました。いわば成功モデルでありまた組織に属する人材も、その成功モデルを体験し経験を有しています。ただデジタルトランスフォーメーションを推進する新しい組織は当然ですがこの今までの経験をそのまま活かす人材ではありません。むしろ今までの成功体験を捨て、全く新しいチャレンジを行う人材の育成が必要です。今までと違った新しいマーケットで新しいビジネスを創出するには新しい技術で新しいアプローチをする手法やノウハウが必要です。既存の成功体験に捕らわれて、既存の手法に拘らない人材を育成することが重要です。
経営
いままで述べてきました、組織、制度、企業文化、人材育成は組織同士や個人で解決できるものではなく経営による関与が必要です。制度設計や企業文化の醸成、人材育成に対する投資はいずれも経営マターです。最も大きいのが組織の設計、運営などで、経営の関与の比重が大きな部分です。
企業が存続していくには現行のビジネスを進める既存の組織と、中長期的に新しいビジネスを目指す新しい組織が両輪として企業に存在することが必要です。
これらからもデジタルトランスフォーメーションの推進には経営が関与すべき点が多い分、新しい経営マインドが非常に求められます。成功するか否かは経営にかかっていると言っても過言ではないでしょう。
デジタルトランスフォーメーションの進め方
ここまで述べてきたように、デジタルトランスフォーメーションを進めるには今までとは違ったアプローチ手法、技術、開発手法などが必要です。これらについて述べてみましょう。
アプローチ手法
新しいデジタル技術を使って今まではなかったマーケットに新しい価値を見出し、新しいビジネスを生み出していくには、最初から解があるわけではありません。その際に上流アプローチ手法としてデザイン思考という手法を使います。
デザイン思考はニーズではなく事象に対する人の本質的な欲求を捉え、新しいアイデアを生み出す思考プロセスです。デザイン思考そのものについてはここで詳しくは述べませんが、一般的に具体的にはワークショップの手法で行います。対象マーケットの事象を観察し本質的な課題を発見し、課題へのアプローチ手法として、ブレインストーミングなどでアイデアを出し合い共有します、すぐにプロトタイプを作成しテストし、アイデアにフィードバックします。それを繰り返しながらアプローチしていき、新しいアイデアを形にしていきます。任天堂が開発した家庭用ゲーム機「Wii」はこの手法を使って開発されたと言われています。
デジタル技術
デジタル素材を使い新しいビジネスモデルを生み出すには必ずしも画期的な技術が必要というわけでもありません。スマートフォンが出てきた時はそうでしたが、そうでない事例が多いことも事実です。例えば米国のUBERの場合、既存のクラウドサービスにカード決済、GoogleMap、ビッグデータの蓄積・分析など、既存のデジタルツールを組み合わせたものが仕組みです。しかしビジネスモデルとしては斬新で瞬く間に既存のタクシー業界をディスラプトしこの業界での世界最大のプレイヤーになりました。
一方で、これから社会を変えていくのではないかと期待される新しいデジタル技術が出てきているのも事実です。AIによる画像認識技術は人の顔や形に加え、性別や年齢、また最新のものは表情などで感情も読み取ろうとしています。音声認識技術は言葉の読み取り技術により議事録の自動起こしや、精度の高い自動翻訳、などいろいろな新しいシーンで活用が期待できそうです。
AIの進化は加速度的に進んでいると言われ、技術的な進歩は常にウォッチしている必要があります。
デジタルデータは非常に価値があり様々なイノベーションがデータドリブンで起こっています。現在基幹系で利用されているERP、MA、SFA、CRMなどのツールは様々な莫大なログデータを保有しています。これらのデータはビジネスに直結するデータであり、AIを使いこれらデータを分析し、新しいマーケットやビジネスにアプローチすることも考えられます。既存のERP、MA、SFA、CRMなどに蓄積されているデジタルデータを新しいAI・ビッグデータ技術で活用していくことが期待されます。
開発手法
デジタルトランスフォーメーションにはアジャイル開発が適していると言われています。ここまでの内容からもデジタルトランスフォーメーションの推進には非常に不確定要素が多く、最終ゴールも決まっていないケースもあり、途中のプロセスも変化しながら進む場合が多いのが一般的です。既存の開発仕様が決まっている開発の場合は、通常ウォーターフォール方式で開発を行いますが、この手法は適しません。
そこでデジタルトランスフォーメーションに向いていると言われる開発手法がアジャイル開発になります。
アジャイル開発はウォーターフォール開発と異なり工程が最初から最後まで順を追って進むわけではなく、イテレーションという計画→設計→実装→テストという小さめのサイクルを回しながら進みます。途中で仕様が変更になった場合や、どうしても想定がうまくいかずゴールに向けて仕様を変更せざるを得ない場合など、手戻りが少なくひとつイテレーション内を戻る分の工数で済みます。
従ってまだゴールが100%明確でないデジタルトランスフォーメーションの場合非常に適していると言えるでしょう。
まとめ
このようにデジタルトランスフォーメーションは分野的にも非常に幅広くなっています。デジタル技術だけではなく、組織論や経営論にも及びます。経営マインドや、アプローチ手法、技術、開発手法など、すべてが今までになかった新しい内容に変更する必要があります。いずれもすべて人材に関わってきます、また新しい人材育成はすぐにできるわけではありません。マインドチェンジ、スキルの習得、実践など中期に渡って計画し、待ったなしですぐに始める必要があります。経営マインドの変更はもちろんのこと、デザイン思考などのアプローチ手法、アジャイル開発などの開発手法など、まずは人材育成の観点から取り組んでみるのもひとつの重要な選択肢と考えられます。
(※1)「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」