KDDI株式会社
- 所在地:東京都千代田区飯田橋3丁目10番10号
- 設立:1984年6月1日
- 資本金:141,852百万円
- 事業概要:電気通信事業
- URL:http://www.kddi.com/
「auでんき」について
「auでんき」は、2016年4月より開始した電力自由化に伴いスタートしました。特徴としてauスマホ・auケータイやauひかりとセットで利用することでお得に利用でき、まとめて請求管理ができること、そして、専用のアプリケーションで使用料のチェックや省エネの知恵を得られること等、通信事業で培ってきたノウハウによる付加価値の付いたauをご利用のお客様向けの電力供給サービスです。
モデレーター:株式会社スカイアーチネットワークス
専務取締役 高橋 玄太
KDDI様は、通信企業からライフデザイン企業へと変革されています。食品から日用品、生命保険や損害保険に続いて、2016年4月1日より一斉にスタートした電力自由化により、「auでんき」の提供を開始しました。この度は、「auでんき」のサービス基盤をAWSで構築するにあたり、スカイアーチの「マネージドサービス」を導入頂き、KDDI様におけるアジャイル開発から商用リリースまでのインフラ領域のご支援をいたしました。
この「auでんき」のプロジェクトストーリーをKDDI株式会社技術統括本部 プラットフォーム開発本部 サービスアプリケーション開発2部 部長 田中 寛氏、志村 修一氏とスカイアーチ営業担当の関、実際にKDDI様に出向していた技術本部の日名川と谷垣に対談形式でお話して頂きました。
導入ポイント
- 従来の開発期間を大幅に短縮するとともに、イレギュラーパターンの仕様変更に対して素早く柔軟に対応できるように、アジャイル開発を採用
- アジャイル開発に最適なAWSを採用し、クラウドネイティブアプリの運用を実現
- AWS導入にあたって、MSPのパートナーとしてスカイアーチを採用
01.「auでんき」の開発現場の課題とは
短納期で、要件が直前まで決まらない状況から、「アジャイル開発」を採用
高橋 今回、「アジャイル開発」を採用された経緯についてお聞かせ頂けますでしょうか。
田中氏 「auでんき」のサービス開発は、KDDIにとって、異業種への新規参入という点とともに、事業開発に必要な様々な情報が入手されるまでが極めて短期間であることが想定され、仕様決定までのプロセスは困難が予想されました。たいへんな短納期であるということと、要件が直前になるまでなかなか決まらないという前提のなかで、社内では、アジャイル開発に積極的に取り組まなくてはいけないという話になりました。開発と運用が一体となったDevOpsの手法を採用し、速さはもちろん、品質面でも、効果があるだろうと判断し、アジャイル開発を採用することにしました。今後は、今回の事例を契機に、商用システムでのアジャイル開発に積極的に舵を切っていきたいと考えています。
高橋 今回、実際にアジャイル開発をしていくうえで、課題となったことは何でしょうか。
田中氏 本格的に商用システムに、アジャイル開発を取り入れるのは初めてでした。従来のウォーターフォール型であれば、要件定義や基本設計のポイントで、説明を受けて、承認プロセスがしっかりあります。一方、アジャイル開発では、とにかくスピード重視で進んでいくので、全体の工程の中で、どのような進捗なのかを把握するのが難しかったですね。課題は沢山ありました。
02.AWS+スカイアーチを選んで正解だった理由
高橋 AWSの採用とともに、スカイアーチを採用頂いた理由はいかがだったのでしょうか。
田中氏 サービス開発にあたり、様々なパブリッククラウドを比較検討しました。既に多数のユースケースがあり、充実した機能があるAWSがアジャイル開発のスピード感には一番最適だと考え、AWSの採用を決定しました。
ただ、当時のKDDI社内では、ノウハウ・経験不足から、AWSを使ったインフラ構築とともに、アジャイル開発を共に並走してくれるパートナーが必要でした。より具体的には、KDDI社内のアジャイル開発チームの一員として、動けるインフラエンジニアを探すということです。そのような背景から、様々なパートナー企業様にお声がけしたのですが、なかなか、どこのパートナー企業様も人材不足のようでした。そのような状況の中、スカイアーチの営業担当さんとコンタクトすることになりました。スカイアーチは、APNアドバンスド・コンサルティング・パートナーで、マネージド・サービス・プロバイダー(MSP)として、豊富な実績を有しているとのことでした。懸念点としては、人材派遣を主要な事業としていない点でしたが、とにかく、いろいろと話し合ってみようと思いました。
高橋 おっしゃる通り、スカイアーチの主要事業は、マネージドサービスの提供、いわゆるMSPです。本来は、技術者の派遣は行わず、リモートでのマネージドサービスをメインに提供しています。今回のご相談を頂いた時、スカイアーチにとって、大きなチャレンジであると思いました。併せて、アジャイル開発への参加意義を考えさせて頂きました。その結果、キャリアグレードのサービスを展開されるKDDI様のアジャイル開発に、MSPの立場で、並走するという経験ができることは、たいへん意義があり、学びが多いと考えました。同時に、従来からのリモートからではなく、お客様の現場から、より深いところまでプロジェクトに関わることによって、クラウドネイティブ固有の運用へしっかり落とし込み、KDDI様の課題解決に大きく貢献できるなら、ぜひ、お引き受けしようと考えました。
田中氏 最終的に、選んだ理由は、正直に言うと、「来てもらわないと困る」というのが一番でしたが(笑) 実際にAWSの認定エンジニアの方に常駐頂き、アジャイル開発プロジェクトのインフラ部分の中心的存在として動いてもらって、とても助かっています。
03.アプリケーション開発もAWSもできるDevOpsエンジニア
高橋 今回、AWS認定エンジニアとして、ソリューションアーキテクトプロフェッショナルの日名川とソリューションアーキテクトアソシエイトの谷垣を受け入れて頂きました。日名川と谷垣の当初の印象はいかがでしたか。
志村氏 日名川さんは初めに来た時から、今みたいに堂々とされていました。もちろん、話を聞けば聞くほど、背景にインフラやAWSに対する知識も豊富で、今回Amazon DynamoDBやAmazon Simple Queue Service(SQS)、AWS CodeDeploy等のAWSプロダクト実装にあたって、意見やノウハウの提供を頂いて、技術的バックグラウンドが豊富にあることが感じられました。インフラだけでなく他の技術分野のコーディングなどにも積極的に意見を頂いてチーム全体に良い影響を与えてくれたと思っています。
高橋 今回、アジャイル開発プロジェクトの中で、スクラム・メソッドを取り入れていると、聞きました。
志村氏 機能別チームに分かれておりまして、日名川さんにはインフラ部分の主担当を任せていました。その他、インフラ以外にもアプリケーション画面の修正やバグのデバック、バッジの実装といったアプリケーション開発にも関わって頂きました。
日名川 企画担当からの要件定義がインフラとアプリケーションで別れていない為、要件をひも解き、両方を理解していないと仕事を進めることが出来ない状況でした。まさに、現場ではDevOpsが求められました!インフラ担当だけではなく、チーム全員に求められていたように思います。アプリケーションでもインフラでも解決できる課題があった時に、アプリケーション開発をしている人と調整することが初めての体験だったので、インフラとアプリケーションの人が同じ場所にいて、その場で歩み寄るようにやり取りが出来たことが新鮮で楽しかったですね。
田中氏 アプリケーションを開発したことはなかったんですか?
日名川 そうですね。アプリケーション開発の経験はありませんでした。弊社の事業内容としては、運用がメインになりますので、アプリケーションが出来た段階でインフラの運用をお願いしますというパターンがほとんどでしたので。KDDI様のプロパー社員の方々に、前のプロジェクトでのノウハウがあったので、困ったらその方たちの前のプロジェクトでの体験談をもとに進めていきました。初めてではありましたが、周りにベテランのエンジニアの方が多かったので、そこまで「初めてだから」という負担は無かったですね。貴重な経験が出来ました。
志村氏 一方、谷垣さんは非常に若くて元気がある方という印象でした。技術職は経験の蓄積が問われるのですが、若い=社会人経験が浅いという認識だったので、少し心配でした。しかし、谷垣さんには若さに加えて、タフネスさや粘り強さがありました。粛々と勉強して確実に業務をこなしていって、みるみるうちに成長していった印象です。日名川さんが抜けたあとも、メンバー全員が心配したのですが、谷垣さんがどんどん中心になって、スクラムマスターになって仕切りだすくらいの頼もしさでしたね。(笑)一番若いのにガンガン言っても許されるくらい現場で信頼を得ていました。
谷垣 入社2年目で、運用の経験も浅くて、JavaとかSQLは初めて扱ったので、不安でしょうがなくて、毎朝、日名川さんと一緒に知らない単語を調べたりしていました。(笑)社会人としても成長することができました。
04.アジャイル開発の凄み・現場でのエピソード
アジャイル開発の圧倒的スピード!
高橋 アジャイル開発を実施していく上でトラブル等はありましたか?
田中氏 アジャイル開発は要件定義をしなくてもできる魔法の技法では無いということは、強く感じました。それなりにドキュメント関係を残さないといけないところであったり、色々あります。事件は現場で起っているものです(笑)一筋縄ではありませんでした。
高橋 志村さんはいかがでしたか?
志村氏 考えていた当初のサービスから、開発の途中でがらっと変わるので、そこがアジャイルならではだなと感じました。主軸の機能が変わったり、トップ画面が全くガラッと変わったり、ドラスティックなサービス仕様の変更が開発の中盤からできて、それに対応できた皆さんはチームとして素晴らしかったと思います。
後半は、サービスイン間近のところで、力技で出来ていく過程が印象的でした。ウォーターフォール型の明確な基準で進めるやり方に比べると、1段飛ばしみたいな状態で進んで行きましたが、最後、凄い勢いで出来上がっていく様子を見ていて圧倒されました。
今まで、自分ってどちらかというとベンダーさんへの発注者側にいましたが、今回は本当の意味での現場を経験して、開発チームとしての一体感は、新鮮で熱いなと感じました。
高橋 営業のメンバーとして関さんはどうでした?
関 営業的視点で言うと、人を出すという前例のない試みでした。リモートで社内から運用する業務体制とは全く違う体制で仕事をお願いすることになるので、2人が現場の人と上手くやっていけるか、心配な部分はありました。2人から現場での話を聞いて、新しいことに生き生きと取り組んでいる様子だったので安心しました。
日名川 今回「auでんき」のプロジェクトに参加して、データベース周りのコーディング技術の勉強をさせて頂きました。加えて、システムを作る上での考え方についても新しい学びがありました。これは、ビジネスサイドの側にいたのが大きいのかなと思っていて、「それはお客様視点で考えているのか」と作業をしていて怒られたのが印象に残っています。僕の中では「良いシステムをつくりたい」という考えが強かったのですが、良いシステムではなくて、このアプリケーションがあるから「auでんき」を契約したいと思ってもらえるようなシステムをつくるという、お客様視点で考えることを徹底しました。スカイアーチのコーポレートスローガン「あなたの側で、あなた以上に考える」の実践です。
谷垣 KDDI様がアジャイルのコーチを用意してくれて、チームのみんなでアジャイルの研修を受けながら一緒に成長できたのが印象的でした。開発が進むにつれて、方向性のずれもあったのですが、コーチの方に都度正しい方向に修正して頂いて、最短の方法を選択して進めていきました。
高橋 私どもにとって、とても学びが深い経験をさせて頂きました。今回、KDDI様は、インフラにAWSを採用したことを契機に、MSPサービスの導入検討をされ、弊社の運用サービスをご利用頂いたと伺っております。MSPサービスに対してのご感想はいかがでしょうか。
志村氏 AWS認定資格をもった実績のあるMSPのスカイアーチさんが、開発と運用を同時にしていることで、連携がスムーズに行え、本当にDevOpsに近いかたちで障害対応までして頂けるのは良いなと思いました。
田中氏 これまでは、まず開発でドキュメントを整備して、運用訓練を実施して、といった引き継ぐ為の時間と工数がかかっていたのですが、DevOpsの体制で進めることで、その引き継ぎをスムーズに行うことができたと思っています。
志村氏 今回、運用監視の自動化として、監視対象の新規登録や障害が発生した際にslack~メール~電話等へと至る段階的な対応をすべて自動で行える仕組みを採り入れました。人による定型作業を自動化することで、多くの障害を未然に排除することができたことは、大きな収穫でした。同時に、スカイアーチさんの運用負荷を下げることも出来たと思っています。
05.スカイアーチメンバーの印象
高橋 KDDI様から見てスカイアーチメンバーに共通した印象などありますか?
志村氏 スカイアーチさんは柔軟な人が多いと思いました。柔らかな物腰で話しやすいですし、技術力もしっかり持っているので、プログラムに熟練していない私たちプロパーにとっては頼りになる存在でした。
06.プロジェクトの評価
高橋 今回のプロジェクトのご評価としてはいかがでしょうか。
田中氏 AWSには、キューやKVS、デプロイツールといった様々のPaaSが用意されているため、自分たちで用意する必要が無く、非常に楽でした。また、スカイアーチさんのおかげで、アプリケーションを作るのに専念出来ているので、これはやらない手は無いなと考えています。今後への再現性は十分あって、会社の競争力を向上させる一つの手段となっていると考えています。社内の運用部門とともに一つの選択肢であり、これからスカイアーチさんも一つの選択肢となります。
高橋 社内の運用部門を採用するか、外部のMSPを採用するかの選択肢がありますね。競争にはなりますが、これからは切磋琢磨しながら、より良い運用を目指していけるのではないかと思います。
07.「auでんき」のこれから
高橋 最後に、これからの「auでんき」プロジェクトのビジョンについてお聞かせください。
田中氏 「auでんき」のアプリケーションでは多くの役立つ情報を発信しています。電気の消費量や電気代のことにより強い関心を持って頂いて、将来的には再生可能エネルギーの利用や、発電されている過程にも興味をもって頂いて、日本のクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献していきたいと思っています。お客様の生活をより豊かにできるような機能追加をこれからも継続的に行い、"より効率的"で"より利便性"の高いエネルギーサービスを提供して参ります。